誰にも言わずにここに置く

誰にも言わないけど留めておきたい、内省と個人所感メモ。というか主に愚痴。

プールにて

運動不足への危機感がいよいよ募ってきた。

何しろ仕事中はほとんど座りっぱなし、

歩くといえば玄関から車までと、目的地の駐車場から建物までの数メートル。

賢い秘書のグーグル氏によれば、

昨年、私は1年間で800km近く移動しているのに、

歩いた距離は30kmに満たない。

さすがに笑った。

そして、ちょっと焦った。

 

そんな折、ある明け方に首を違える不覚を取った。

いわゆる「ぎっくり首」と思われる。

これが、白目を剥くほど痛い。

ふとオアシスのように、痛みを感じずに済む角度があるのだが、

トイレにも行けば喉も渇く。一定の角度を保つのは難しい。

そしてオアシスから一歩足を踏み外したが最後、

右後ろの首筋を、万力で握りつぶすかのような激痛が襲う。

そもそも悲鳴をあげずにいられないが、大声を出すと痛みが和らぐので、

大げさなほどに叫んでみる。

見かねて相方が休暇を取り、医者へ運んでくれた。

車に乗るのも下りるのも、診察室まで歩くのも、地雷の畑を渡るかのような心地だった。

 

処方された鎮痛剤と湿布は、よく効いた。

それでも身体を起こして頭を支え続けるのが辛く、その日は寝て過ごした。

たまたま急ぎの仕事がない日で幸運だったが、

これは、日ごろの運動不足が祟ったにほかならないと私は痛感した。

 

それで、いよいよ何か運動を始めようと思い立った。

私は水泳が好きだから、市民プールへ行くことにした。

バカンスムード満載のセパレート水着しか持たないが、

気合いを入れてスポーツ用を買っても続くかどうかわからないから、

とりあえず手持ちでトライヤル。

数度通ってみて、習慣化できそうだったら満を持して新調しようと思う。

 

プールは、泳ぎ続ける人、歩く人など、メニューでレーンが分かれていた。

私はひとまず、泳ぎ続けるコースに入ってみた。

プールで泳ぐのは、記憶の限りで10年以上ぶりだ。

25m泳ぎ切れるだろうか。

そう案じたけれど、平泳ぎで100m、足もつかずにあっさり泳げた。

ただ、クロールは持久力が保たない。

今日はならし運転ということで、歩いてもOKのゆっくり泳ぐコースに移り、

往路は歩いて、復路は平泳ぎというスタイルで往復を始めた。

 

そのコースには私のほかに、もう一人女性がいた。

彼女はずっと、クロールで泳ぎ続けていた。

クロールは50mですっかりバテた私は、そのスタミナに感服した。

しばらく、私と彼女と2人でそのレーンを行き来した。

プールの端では、遠慮しなくても追いつかないほどの距離が空くまで休み、

ほどよい間隔を保ちながら黙々と歩き、泳いだ。

 

多分、私が勝手に距離を取っていただけだ。

彼女は殆ど休まななかった。

私は片道歩いている分、帰りの平泳ぎは元気よく進めるので、

彼女が先へ行くのを少し待たないと、追いついて煽るような形になってしまう。

 

それを暗黙の了解として、無言のコミュニケーションを楽しむかのように

私たちは静かにレーンを回り続けた。

すれ違うときは、わずかに腕と脚の広げ方を小さくした。

 

ところが、そうして平泳ぎしていると、プールの半ばを過ぎた辺りで、

不意に水音が後ろからやって来た。

それはあっという間に横に並び、私を追い越して先にプールサイドに着いた。

小学生くらいの女の子がにこにこと立ち、横には父親らしき大柄の男性がいた。

 

子どもに追い越されてムキになるほどの闘志は持たないが、

いい気分ではなかった。

確かにどこにも「追い越し禁止」とは書いていないし、

危険な行為というほどでもないけれど、

前を行くクロールの女性を邪魔しないように気遣って来た私には、

とても無礼に思われた。

そもそも、「あんたトロイのよ」と言わんばかりに追い越してくって、何。

ここはゆっくり泳ぐコースなのに。

早く泳ぎたいなら、そういうコースに行けばいい。

子どもだけならまだしも、父親だって悪びれる様子もない。

 

心の中で小さく憤慨したものの、

私は、今日初めてこのプールへ来た新参者。

追い越しは、ここでは普通のことなのかもしれない。

釈然としないけど、そう落ち着くことにした。

親子は正規の順序へ戻るかのように、私が出発するのを待っていたけど、

私が彼女たちの行く手を阻むのも、後ろからせっつかれるのも嫌だったので、

先に行ってもらった。

せめて、クロールの彼女のペースを妨げないでほしいと願った。

 

それから2往復もしないうちに、親子は別のレーンへ行った。

私たちのレーンは、また2人になった。

平和が戻ったような気がして、ほっとした。

目が合うでもないクロールさんに「良かったね」と心で呼びかけた。

 

その後、一度だけ、スタートサイドで追いついて顔を見合わせた。

彼女が耳から水を抜くために止まっていたためだった。

私よりは、だいぶ若い人に見えた。

私は何かを言おうとしたけど、

たとえば、ずっとクロールで泳ぎ続けてすごいねとか、

スタミナがあるんですねとか、

でも、何も言わずに、目をそらしてしまった。

声をかけたりしたら変な人に思われそうな気がしたし、

自分がかけようとした言葉に対して

「だから何やねん」とセルフツッコミしてしまったし、

まあ、ここは、無理にくさびを打たなくてもさらっと流しておこう、

と思った。

 

1時間ほど私はプールで過ごし、くたくたになって上がった。

初日なだけに無理はせず「今日はこのくらいにしといてやろう」というところだ。

 

小学生のころは、25m泳いではプールサイドを走ってスタートへ戻り、

泳いでは走って戻りを、放課後何時間も繰り返したのに、

いまやわずか1時間で両肩の筋肉(どうやら大胸筋というらしい)が痛くて仕方ない。

何とも情けないけど、正直な所、思っていたよりはよく泳げた。

 

さて問題は、プールが一発花火のイベントになってはいかんということだ。

仕事の都合を考えると、できれば毎週、最低でも月2回は通いたいと思うが、

何しろ継続が大の苦手なので、どうなることやら。

 

そういえば、塩素で随分肌荒れするように感じた。

今夜は保湿クリームを通常の3倍塗って寝よう。

 

いや、3倍はうそ。